「相手の立場に立って」
2023.12.08
特許ウクライナ紛争の出口も見えないというのに、最近ではガザ地区での悲惨な状況が連日報道されています。急襲されたイスラエル市民も、爆撃を受けたパレスチナ市民も、いずれも気の毒としか言いようがないのですが、やられたらやり返す「倍返し」を繰り返していたのでは事態はエスカレートするばかりです。
さて、特許権は独占排他権ですから、特許権者は特許された発明を独占排他的に実施できます。けれども他人の特許があって、発明品が自分の特許と他人の特許の両方の権利範囲に含まれる場合には、両者ともに勝手に実施することはできません。このように、特許権を持っていても発明を実施できる権利が保障されているわけではないので、特許権の本質は「独占実施権」というよりは「排他権」だと考えた方がわかりやすいでしょう。「排他権」ですから、特許権の範囲に含まれるかどうかが議論されるのは、自社ではなく他社の行為です。したがって、他社を効果的に排除できる権利範囲を設定することが重要になります。
特許出願に際し多くの人は、自社の実施予定技術をカバーすることを第一に考えて請求項を設定しますが、本当に大切なのは他社の実施予定技術を排除することです。そのためには、相手企業の立場に立って、請求項に記載された発明を回避するにはどうしたらよいかをよくよく考えることが大事です。自らが実施する予定のない方策であっても、何とか特許を回避しようとする他社ならば採用するかもしれない、などと相手の立場に立って想像力をたくましくして、相手方の特許回避を防げる権利範囲の特許を取得したいものです。
話をガザに戻します。紛争当事者の人たちは、相手の立場に立って冷静に考えれば理解できることが、恨みつらみや政治の思惑の中でわからなくなっているのでしょう。特許とは次元の違う話ですが、少し立ち止まって相手の立場に立って考えてみればいいのに、などと思ってしまいます。
日本弁理士会中国会 弁理士 中務 茂樹