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『スマホ・ソフトウェア競争促進法』立法に係る知財権規制の課題 -英国法政策示唆と TRIPS 協定適合性-

2024.08.19

近時、我が国においては内閣官房 デジタル市場競争本部事務局により『モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告』(「最終報告」)が昨年 2023 年に意見募集のため公表され、同報告ではスマートフォン端末に搭載されるモバイル OS 技術と関連知財権を対象として、公平公正な競争環境を実現するための事前規制措置の実施が提案されています。さらに、かかる最終報告の諸規制を実現するモバイル・エコシステムに関する競争評価新法を内容とする法律案(『スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律』いわゆる「スマホ・ソフトウェア競争促進法」法案)は、今国会にいち早く提出され、本年 2024 年 6 月に衆参両院にて可決成立したことが報じられています。
しかしながら、スマートフォン・プラットフォーム事業者が有する全く新規のモバイル OS 技術と関連知財権に関する情報提供命令をも可能とし得る本件新法(最終報告 II.各論 第 6-5 節「ボイスアシスタント機能」連携技術等及び新法第 7 条第 2 号)については、英国法下での法政策議論等に鑑みれば、イ)知財制度を基礎として推進される革新的イノベーションと技術進歩による経済成長を阻害するおそれがある点に法政策学上の「法的適格性」からの懸案が存するものであり、またロ)我が国が遵守すべき TRIPS 協定関連各条の条約法上の遵守義務への適合性懸案が存する点に同「法的整合性」からの問題が残るものと考えられます。
特に英国での本件法政策議論では、既存のモバイル OS 技術と関連知財権については、競争法上の事前規制措置の対象とし得るものの、全く新規のモバイル OS技術と関連知財権に関しては、原則として事前規制の対象とすべきではないことが明示されており、我が国法政策判断においても重要な示唆を有すると考えます。またかかる本件新法のあり方は、立法過程・法政策学上の重要懸案であると同時に、当方奉職の山口大学 MOT における技術経営学上の『非市場戦術』経営課題とされていることにも留意すべきでしょう。
以上より本件新法の今後の立法細則と法運用においては、非常に慎重な検証作業と対応措置の実施が望まれ、継続的な観察と検討が求められるものと考えます。
追補:日本弁理士会『パテント』誌 8 月号に弊著関連論稿(竹内誠也「モバイル・エコシス競争評価立法に関する法政策学的検討 -英国法政策示唆と TRIPS 協定適合性-」)が掲載されております、宜しければあわせてご一読くださいませ。

日本弁理士会中国会 山口大学大学院 技術経営研究科 教授・弁理士 竹内 誠也