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「白黒をつける」

2024.12.18

米国大統領選の結果はトランプ前大統領の勝利でした。激戦7州を制したから圧勝ということでしたが、全米でのハリス氏とのポイント差は僅か 1.6%に過ぎません。その差で圧勝というのはどうかと思いますが、いずれにせよ白黒がつけられました。
特許の審査においても、結論は「特許査定」と「拒絶査定」しかありませんから、白黒がつけられます。かつて私が企業研究者だった頃には、研究成果が成功なのかどうかはっきりしないことも多く、モヤモヤすることが多かったのですが、特許業務に携わるようになると短期間で白黒がつくので、その点は仕事における良いモチベーションになっています。
裁判における判決でもまた、微妙な争点の白黒をつけなければなりません。けれども、係争対象物が特許権の権利範囲に含まれるかどうかや、特許された発明が容易に思いつく程度のものなのかどうかといった議論は、グレーゾーンの中でお互いに自分に都合の良い理屈をこね合うような話になりがちで、見方次第でどちらの理屈もまた真実、といったような場合が多いように思います。
裁判所が公表している最近 10 年間の特許権侵害訴訟(地裁レベル)の統計データによると、その 30%が判決に至らず和解で決着しています。原告も被告もお互いにグレーゾーンの中にいることをわかっているので、裁判手続きの中で裁判官の勧めにしたがって和解で決着することが多いのです。地裁の判断が知財高裁で覆ることもしばしばですから、灰色決着はむしろ合理的ともいえます。
大統領選のニュースに触れながら、僅かな得票率の差で白黒をつけるのが合理的なのか、そもそも民主主義の多数決は本当に合理的なのか、などと考えてしまいました。もう少しグレースケールの濃淡を反映させられる制度の方がよいのかな、などと社会の仕組みに思いを巡らせつつも、理屈をこねくり回してぎりぎり勝ち取った特許査定にほくそ笑んでしまうのでした。

日本弁理士会中国会 弁理士 中務 茂樹