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「飛べ!ゴム飛行機」

2025.03.21

某ECサイトの「おすすめ」に昔懐かしいゴム動力のプロペラ飛行機キットが表示されました。検索していないのに何故だろう?と思いつつも、つい買ってしまいました。幼い頃、県道に向かう橋を渡った急な上り坂の脇に、店のお婆さんが正座して子供たちを迎えてくれる「坂(さか)」という名の小さな駄菓子屋さんがありました。両親が共働きで鍵っ子の私は、毎日、引き戸棚に置いてあるおやつ代を握りしめて「坂」に行き、駄菓子を買っていました。


ある日、ふと目線を上げると長袋に入った飛行機キットが目に入りました。しばらく見ていると、「自分で組み立てて飛ばすんじゃよ。でも、難しいかもしれんな」とお婆さんが話してくれました。坂に行くたびにゴム飛行機が気になって仕方ありません。そこで、おやつを何日も我慢して10円玉を貯め、ポケットに20枚ほどジャラジャラ入れて坂に行き、両親に黙ってゴム飛行機キットを買いました。自宅に駆け戻り開けると、中に入っているのはプロペラのほか、数本の長い木材、紙、ゴムなどで、これで飛行機になるん?と戸惑いました。当然、幼い私には難しく、形になりませんでした。それでもまたおやつを我慢して、何度も買って挑戦しましたが、どうしても竹ひごフレームに翼紙を貼ることができませんでした。


ある日のこと、普段より早く両親が帰ってきました。「これ、一緒につくろうや」父はゴム飛行機キットを持っていました。両親はスーツ姿のまま組み立てを始めました。 作業は数日続きました。カーブ状の竹ひごフレームに翼紙を折り返して糊付けしたのは母でした。母の指がちょうどそこにフィットしたのです。「母ちゃん、すげーなぁ!」そして、父と私で翼の角度を設計図通りに整えて、ゴム飛行機は完成しました。その日は晴天、辺り一面の田圃には、紅紫のレンゲの花が生い茂っていました。私はプロペラのゴムを指定よりもかなり多めに巻き、慎重に父に手渡しました。そして、私が見上げる眩しい位置で、父は飛行機をゆっくりと前方に手放しました。「うわあ!飛んだ!」


私は斜め前方、ぐんぐん上昇するゴム飛行機を追って無意識に駆け出しました。膝ほどまであるレンゲに足を取られ、何度か前のめりに転びました。そして、着地したゴム飛行機を手に取り、両親のもとに息を切らしながら駆け戻りました。父は「なあ、ちゃんと作ったら飛ぶじゃろ。じゃけん、あきらめたらいけんぞ」と言いました。そして手に持ったゴム飛行機の翼紙が破れているのを気にする私に、母はこう言いました「壊れたら直せばええんよ」

ところで、最近つい買ってしまったゴム飛行機ですが、今はまだ組み立てずに、両親の仏壇に供えています。


日本弁理士会中国会 弁理士 舩曵 崇章