「国際出願について」
2020.05.20
特許以前、当コラムで国際出願の利点として、「殆どの国において基礎出願日から30ヶ月以内に移行手続を行えば移行した国で審査を受けることができるので、複数国出願する場合に、手続的な負担や費用の発生時期を分散できる」というメ
リットがあることを説明しました。
国際出願では上記以外にも、例えば、国際調査報告を受け取ることができる、各国への移行前に請求の範囲等を補正できるといったメリットもあります。国際調査報告は、国際出願に係る発明について特許性があるか否かの報告であり、特許庁の審査官が従来技術を調査した上で、新規性、進歩性、産業上の利用可能性について判断した結果が記載されたものです。同時に、審査官の見解が記載された見解書も送付されますので、それらを見ることで、移行前に、権利化の可能性をある程度判断することができます。例えば、新規性がないなど、移行しても権利化の可能性が極めて低い場合には移行を諦めることができ、費用の節約に繋がります。
一方、国際調査報告を参考にし、各国への移行前に請求の範囲を補正して進歩性を高めた上で、各国の審査を受けることもできます。
つまり、国際出願の場合、各国への移行前にある程度の権利化の可能性を得て、それに応じた手を事前に打つことができるのです。
ところが、国際調査報告は移行先の国の審査結果を拘束するものではありません。すなわち、国際調査報告で進歩性があると判断されていたとしても、移行先の国の審査で進歩性がないと判断されることがあり、その反対もあり得ます。これは各国の審査レベルの相違、査精度の相違に起因するものかも知れませんが、私の経験で、日本の審査官が国際調査報告で進歩性ありと報告したので、そのまま日本へ移行して審査請求すると、別の審査官から進歩性なしとの拒絶理由が通知されたことがあります。同じ国であっても、審査官による相違もあるようです。
いずれにしましても、国際調査報告を受け取ってからの具体的な手続は、各国での審査結果やその後に発生する費用に大きな影響を及ぼすことになりますので、弁理士にご相談いただくことをお勧めします。
(日本弁理士会中国会 弁理士 齋藤 克也)