知財コラム

「中国 SEP(標準必須特許)事件に係る TRIPs 協定 第 63 条第 3 項による情報提供要請の概要」

2021 年 7 月 6 日付けにて WTO(世界貿易機関) TRIPs 理事会は、欧州連合(EU)から中国に対して TRIPs 協定第 63 条第 3 項に基づく知的財産制度に係る情報提供要請が行われた旨をスイス・ジュネーブにて公表しました。
本件要請においては、中国での複数の標準必須特許(SEP)事件に関する情報提供が求められており、TRIPs 協定下における知的財産権行使とその透明性確保の側面に関する事例として注目されています。対象となる SEP 事件には最高人民法院により 「訴訟差止命令(anti-suit injunction)」がなされた 2020 年のConversant v. Huawei 事件(最高人民法院)ほか合計 4 つの SEP 事件が含まれ、これら事件の全てについて、中国政府公式ウェブサイトまたはその他の手段により詳細情報の提供がされるよう要請されています。
かかる要請に対し中国政府は本年9月の回答にて、「TRIPs 協定第 63 条第 3 項に基づく EU による情報提供要請に留意」するものの、当該要請にて対象とされる諸事件は、コモン・ロー法制を採用しない中国法制においては単に「参照(cases for reference)」される対象に過ぎず、「一般適用される法的効力を持たない(no legal effect of general application)」ことから、同第 63 条第 3 項による要請に対して「中国が対応する義務はない」ものと主張しました。
この結果、本事案は「既存の二国間チャネルを通じて更なる議論を行う」べきものとされ、TRIPs 協定上の義務としての回答は事実上拒否されている状況にあります。
本件での中国政府回答からも明らかなとおり、TRIPs 協定における知的財産権行使などの透明性の確保に係る第 63 条は、その対象とする加盟国の権利・義務の明確性に課題があるものと考えられます。かかる現行条項文言の不明確性に鑑み、継続的に同協定第71条 による各加盟国実施の検討が行われ、将来的な修正又は改正が適切に実現されることが期待されます。

(日本弁理士会中国会 弁理士 竹内 誠也)

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