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「遺伝子は誰のもの?」

2016.12.21

単なる「発見」であって創作されていないものは「発明」ではなく、特許されません。したがって、新種の植物を発見してもそれは創作物ではないので、その植物の特許は取得できません。一方、その植物から抽出された化学物質は天然物ですが、人為的に単離することに創作性があるという考え方によって、特許されます。
では、遺伝子はどうでしょうか。近年のバイオテクノロジーの進歩により、ヒトの遺伝子の膨大な塩基配列が解読されましたが、遺伝子の中には病気の発生に関連する部分があり、それが新薬の開発や診断の役に立つことがあります。そのような有用な遺伝子は特許されるのでしょうか。
天然物から単離することに創作性があるという考え方に沿って、最近まで日本、米国、欧州のいずれの特許庁も、単離された遺伝子(遺伝子の一部)を特許していました。しかし、単離されたヒトの遺伝子に特許が付与され、一企業がそれを独占することに対して違和感を覚える人も多いと思います。
2013年6月の米国連邦最高裁判決では、遺伝子情報が人為的に転写された cDNAは特許されるけれども単離されただけの遺伝子は特許されない、という判断がなされました。乳がんを高リスクで発症する遺伝子についての Myriad 社の米国特許が一部無効とされたのです。この特許でカバーされていた検査薬は、女優アンジェリーナ・ジョリーが乳がん発病前に予防的に乳線を摘出した際に用いられたものとして、当時ワイドショーでも話題になりました。
現在、日本と欧州では単離された遺伝子は特許されますが、米国では特許されません。今後それぞれの国でどのように取り扱われるのか、注視が必要です。
このように、特許の対象である「発明」の解釈は変わることがあり、絶対的なものではありません。技術の進歩や産業政策の変化にしたがい、時代とともに変遷してゆくものなのです。

(日本弁理士会中国会 特許業務法人せとうち国際特許事務所 弁理士 中務 茂樹)