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「モデルナ VS ファイザー」

2022.12.21

現在、日本国内で公的接種として承認されている新型コロナワクチンは、モデルナとファイザーのそれぞれの mRNA ワクチン、ノババックスの組換えタンパクワクチンの 3 種類です。mRNA ワクチンはオミクロン株 BA.4/5 にも対応済です。
なお、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは接種終了になっています。2022 年 8 月 26 日に、モデルナがファイザー/ビオンテックに対し、新型コロナワクチンの特許権侵害で米国とドイツで提訴したとのプレスリリースがありました。
これまでモデルナは、「パンデミックが続いている間、パンデミックと戦うためにワクチン製造を行う人々に対して特許権の権利行使をしない」と表明していたところ、一変してその姿勢を変えて訴訟提起したということですが、その兆候は少し見えていました。
モデルナは、2022 年 3 月に「権利行使しない」という表明を覆し、「低・中所得国では権利行使しないが、それ以外の国ではモデルナの知的財産を尊重することを期待しており、商業的に合理的な条件でライセンス供与する意思がある」と表明を更新していたからです。なお、低・中所得国は COVAX の 92 カ国のことで、COVAX は WHO が主導するワクチンを共同購入する仕組みです。
特許権の権利行使には、主に差止請求と損害賠償請求がありますが、モデルナは差止請求を求めていません。差止請求は、ファイザーmRNA ワクチンを市場から排除することにつながるため、公益的な面や企業イメージを考慮したのではと推察されます。また、モデルナは、2022 年 3 月以前の製造販売に対する損害賠償も求めていません。つまり、2022 年 3 月以降に「低・中所得国以外の国での損害賠償」のみを求めていることになります。
新型コロナウイルスワクチンの特許権を一時的に放棄させる議論がありましたが、特許権を放棄しただけで安全性が確保された製造が直ちにできる訳ではなく、それにより供給が加速する方向になるとは思えません。むしろ次の研究開発への意欲が失われかねません。モデルナもファイザーも、これまでの研究開発の蓄積を基にして共に先頭を走り実用化までこぎつけました。両者の争い決着までかなりの時間を要すると思いますが、動向に注目していきたいと思います。

(日本弁理士会中国会 弁理士 伊藤 俊一郎 )